第五話 いそぎんちゃく

9.胸


 「アカフク!? どこいった?」

 シロフクは目を固く閉じ膝立ちの姿勢でいざりつつ、仲間を手探りで探した。 しかしアカフクが彼の手に

触れることは無かった。

 「わっ?」

 急に膝が沈み、シロフクは地面に手をつく。 手首辺りまでが地面に沈み、しっとりとした感触に包まれる。

 「いっ!?」

 シロフクは、自分が『巨大いそぎんちゃく』の『乳房』の上にいることを思い出した。 手を抜こうと弾みをつけて

体をそらすと、勢いよく手が抜け、そのまま背中から倒れこむ。 

 ブワン……

 『乳房』が波打ってアカフクを受け止め、むき出しのうなじに『乳房』感触が纏わりつく。

 「ちくしょ!!」

 横に転がり、肘をついて体を起こそうとするが、『乳房』の表面はふにゃふにゃと頼りなく、思うように動けない。

 「いきなり柔らかくなりやがって……」 シロフクが凍りついた 「まさか、俺を……」

 ビクン!

 『乳房』が震えシロフクは転がされた。 

 「わっわっわっ!?」

 極上の羽根布団より柔らかい白い大地を、ウエットスーツ姿のシロフクがころころと転がっていく。

 パフッ

 唐突に回転が止まった。 感触からすると、浅いくぼみにはまったようだ。 

 「俺はゴルフボールじゃねぇ!」

 悪態をつきつつ、シロフクは体を起こそうとした。

 ズブリ

 右足が地面に沈み込んだ。 慌てて左足を踏ん張るが、そちらも右足同様沈み込む。 体を支えようとした手が

『乳房』の割れ目を探し当てた。

 「こ、ここは『胸の谷間』か!?」

 シロフクは『巨大いそぎんちゃく』の丘ほどもある乳房、その胸の谷間にはまり込んでいたのだ。


 「つ、つぶされる? いや、沈んじまう」

 足が挟まれているので、うまく体を支えられないし、『いそぎんちゃく』の視線が怖くて目も開けられない。  

シロフクは、じたばたともがきつづける。 と、その手を誰かが握った。

 「アカフクか!?」

 思わず両手でもその手を握り締めた。 しっとりした、細くたおやかな手の感触だ。

 「……」

 シロフクは再び凍りつき、つい目を開けてしまった。

 「おわぁ!?」

 手は『乳房』から生えていた。 いや手の持ち主、豊満な肉体の『女』が乳房から生えつつあった。

 「こ、こいつも『いそぎんちゃく』なのか!?」

 『乳女』は『乳房』と同じ白い肌、母性を感じさせるメリハリのきいた豊満な肉体をしていた。 しかしその頭には……

髪にも見える指ほどの太さの白い触手がうねっている。

 「本性を出してきやがった」

 『乳女』は艶然と、それでいて限りなく優しく微笑むと、シロフクの首に両手を回して自分の胸にかき抱いた。

 「わっ?」

 『乳女』の乳はおそろしく柔らかく、シロフクの頭を包み込んでしまう。 微かに甘い女の匂いに包まれ、シロフクは

頭がぼうっとしてくるのを感じた。

 (……く、くそっ)

 シロフクは全力で、『乳女』の谷間から頭を引きいた。 すると『乳女』は微笑を顔にのせたまま、再びシロフクを

引き寄せ、今度は胸の頂にシロフクの顔を誘う。 

 「むぐぐっ」

 乳の頂が唇を狙っていることに気がつき、シロフクは歯を食いしばって唇を固く閉じる。 一瞬遅れ、『乳女』の乳が

シロフクの顔面にゆっくり張り付く。

 (やられてたまるか。 にっ?)

 唇の間、歯の隙間から、柔らかいものが口の中に滑り込んで来る。 乳だ。 『乳女』の乳房はけた外れの柔らかさで

僅かな隙間からしみ込むように口腔内に滑り込んでくるのだ。

 「っぁ?」

 唇が、顎が、意思に反して開いていく。 力任せにこじ開けられたのではない。 その柔らかく優しいものに触れて

いるだけで、拒むことが出来なくなるのだ。

 (このやろ……おっ?……ああっ……)

 シロフクは、舌で『乳』を押し出そうとし、『乳首』を舌でこね回してしまった。 『乳首』が、シロフクの口の中で身をよじり

愛しげに舌に擦り寄り、それを呑み込んでしまった。 舌が微かな苦味と優しい甘みに包まれる。

 (あ……だめ……入ってくる)

 トローリ……トローリ……

 舌を伝って、甘くとろりとした『乳女』の乳液が流れてくる。 それを味わったシロフクは、頭の中に乳色の靄が

かかっていくのを感じた。

 (だめ……)

 拒絶の意思もむなしく、シロフクの喉を暖かい液体が滑り落ちていった。 すぐに、お腹の中から暖かいものが染み

渡って来た。

 (あ……暖かい……)

 全身から力が抜け、暖かな快感のさざ波に身を任せるシロフク。 ぬるま湯に浸っているような快感に、身も心も

じんわりとほぐれ蕩けていくようだ。

 (あ……あぁ……)

 ヒクッ、ヒクッと二度痙攣し、シロフクは絶頂を迎えた。 しかし『乳女』のもたらした快感はすぐには去らず、糸を引くように

長く続く余韻が心地よい。


 ”良かった……”

 『気持ちよかったでしょう……』  『乳女』が囁く。  『もっと良くしてあげる……』 

 シロフクは、きっと目を見開き、『乳女』をにらみつける。

 ”くそっ。 おれは他の奴らと違うぞ! 喰われてたまるか!!”

 『まぁ、強い心の方なのね。 たくましいわぁ』

 『乳女』の微笑みに淫靡な影が濃くなっていく。 『淫らな母性』の魔性と言う、狂気としか思えぬ存在に、シロフクが

たじろぐ。

 ”ま、負けねぇぞ……おい!?”

 いつの間にか、新たな『乳女』が現れ、シロフクの背後から纏わりついてきた。 腕と触手を器用に使い、足を『谷間』に

挟まれて身動きできぬシロフクから、ウェットスッーツを剥ぎ取っていく。

 ”やめろ……おぉっ!?”

 露になった肌に、『乳女』の肌が触れる度に羽毛でなでられたような感触がする。 二人の『乳女』は欲情に濡れた瞳で

シロフクを見据えると、挟み込むようにしてシロフクに抱きつく。

 ”うっく……くそっ……くそっ……”

 『乳女』の肌は、シロフクの肌にいったん吸い付くとなかなか離れず、吸い付かれた部分が徐々に気持ちよくなっていく。 

シロフクは、体が『乳女』達と徐々に溶け合っていくような錯覚を覚えた。

 ”はなれろ……この……このっ……”

 手と触手で絡み合う『乳女』の女体、その間から突き出たシロフクの腕が空しく宙を掻く。

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